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仙台高等裁判所 平成5年(ラ)12号 決定

抗告人 乙山春子 外3名

相手方 甲野太郎

被相続人 甲野花子

主文

原審判を取り消す。

本件を仙台家庭裁判所に差し戻す。

理由

1  本件抗告の趣旨は、主文同旨であり、その理由は、別紙記載のとおりである。

2  一件記録によると、本件遺産分割の対象となる遺産は、原審判遺産目録記載の宅地(以下「本件宅地」という。)の2分の1の共有持分(以下「本件遺産」という。)であること、これに対する相続分は、被相続人の夫である相手方が2分の1、子である抗告人らがそれぞれ8分の1であること、相手方は本件宅地の2分の1の固有の共有持分を有していること、本件宅地には相手方及び抗告人甲野一郎の共有に係る別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建物1」という。)、抗告人甲野三郎所有に係る同物件目録2記載の建物(以下「本件建物2」という。)が存在しており、それぞれ生活の本拠となっていること、本件建物1及び2の配置及び本件宅地の形状からすると現物分割は困難であること、本件宅地の平成4年度の固定資産課税台帳記載の評価額は3509万7313円であること、相手方は、本件遺産を競売により売却して、その代金を分割することを希望していること、その際、相手方の固有の共有持分も競売代金と同額で売却すると申述していること、本件建物1の所有者である相手方及び抗告人甲野一郎、並びに本件建物2の所有者である抗告人甲野三郎が本件宅地を利用している法律関係は明確ではないこと、抗告人らはいずれも、競売による換価分割には反対していることが認められる。

以上の事実によると、本件遺産につき、現物分割をすることが不可能であるとしても、直ちに、競売によりその代金を分割する方法を取ることは相当でない。すなわち、本件宅地上には抗告人甲野一郎及び抗告人甲野三郎の生活の本拠である本件建物1及び2があり、その使用関係は必ずしも明確ではないことからすると、競売により右使用関係を買受人に対抗できなくなる危険がある。そして、本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者(1人とは限らない。)に取得させて、取得者が債務を負担する方法をとることが可能であれば、競売による換価分割よりも望ましい方法であることは明らかである。ところが、原裁判所は、本件宅地の時価が1億5000万円を超えると推察し(前記固定資産課税台帳の記載を根拠にしたものと解されるが、どの程度の合理性を有するか明確でない。仮に1億5000万円が本件宅地の価格とすると本件遺産の価格は7500万円となる。)、抗告人ら及び相手方には本件遺産を取得する資力(分割支払い能力も含まれる。)を有する者はいないと認定して、債務負担の方法による遺産分割を否定しているが、相手方及び抗告人らに本件遺産を取得する資力を有する者はいないと認定するに足る充分な資料は一件記録からは明らかでない。したがって、本件建物1の所有者である相手方及び抗告人甲野一郎、本件建物2の所有者である抗告人甲野三郎が本件宅地を利用している法律関係、本件遺産につき、これを相続人のうちの特定の者が取得して、取得者が債務を負担する方法が可能であるか否かにつき原裁判所は審理を尽くしていないというべきであり、これらの点につきなお審理を尽くさせる必要がある。

3  よって、原審判は失当であり、本件抗告は理由があるので家事審判規則19条1項により原審判を取り消し、本件を仙台家庭裁判所に差し戻すこととし主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 田口祐三 菅原崇)

別紙〈省略〉

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